ヒトと牛馬や犬との違い

たくさんありますが、以下は骨を比較した図です。

一番の違いは前後肢です。馬は地面を蹴って効率よく早く走るために足先を単純化、軽量化して踵を立ててつま先を蹄に変化させた。だから人のように複雑な機能は無いし足裏の感覚なども無い。棒のようになっています。

高さの違い

他の哺乳類と違い今から700万年前頃からヒトは進化の過程で直立二足歩行を始めることで得られたいいコトと悪いコトがあります。
いいコトは手が自由に使えるようになったために器用に手を使って物を摘まんだり(拇指対向性により親指と他の指を向き合わせて挟むようにしてぎゅっと握ることができる)道具を使ったり出来るようになったこと。
悪いコトは重力の負荷を受けて可動域の広い関節部に障害が生じやすくなったり循環器系に負担がかかるようになったことです。
ヒトの身長は頭のてっぺんから足まで約170~180cm、体重約70kg。馬だとサラブレッドで 体高が約160〜170cm、体重約500kg。犬だと体高は約40~70cm、10~25kg程度。二本足のヒトと四肢の動物と比べると上下の差がかなり違ってきます。そして体重を支える足は2本と4本の違いがあります。

馬が骨折すると多くは粉砕骨折となり修復不可能なので尊厳死が選択されます。馬は横になって骨がくっつくのを待てないんです。2日寝かせておくだけで肺に水が溜まり腸の動きが悪くなり血液が全身に巡らなくなります。また下側の肢が麻痺し足の血管が少ないので感染症を起こしやすく手術をして繋ぎ合わせても再び折れるを繰り返します。

ヒトは上実下虚(じょうじつかきょ)とか逆気、頭寒足熱、冷えのぼせなどの人特有の症状を表す言葉が生まれましたし、起立性調節障害、脳貧血、首肩コリ、高血圧(人の2~3倍あるキリンほどではないですが)、胃下垂、腰痛、痔、難産、鼠経ヘルニア、関節炎、関節変形、下肢静脈瘤などが起こるようになりました。だからツボや経絡の意味も違ってきて当然です。

手の構造の違い

ひづめを持つ有蹄類には奇蹄類(ウマ目でつま先が1本骨)と偶蹄類(ウシ目つま先が2本骨)があります。これらに共通しているのは走ることに特化した蹄という爪が変化した硬い角質の器官が足の先端に付いていることで、ヒトで言えばつま先で立っている状態になります。一方食肉目に属している犬や猫の指は5本になっており先端には蹄ではなく爪がありますがヒトのように拇指対向性もなく自由に動くわけではありません。

歩き方も違います。足裏全体を地面に着けて歩く「蹠行(しょこう)」は人やネズミ、リス、サル、クマなど。踵を浮かせて指先(足指の付け根)だけ地面に接地して歩く「趾行(しこう)」はイヌやネコです。そして踵を浮かせ蹄で歩く割と大型のウマやウシ、ヤギなどです。走るということにおいて馬はとても効率的で歩く動作と走る動作であまり変化が無く心臓も肺も大きいので心拍数も急激に上がったりせず足も単純な構造で軽く爪先(蹄)も硬いので効率的で長距離歩が得意といえるでしょう。

しかし走ることを優先し前肢つまり手の機能が犠牲になったので手で掴んだり出来ないので頭を地面まで降ろして草などを食べなくてはいけない。そのため首や頭骨や舌などが長くなり、それを支える靭帯(項靭帯)や首の筋肉が強化されました。

骨格の数の違い

馬と人は200個ほどで骨の総数はほぼ同じですが背骨は以下のような違いがあります。

頚椎(C)胸椎(T)腰椎(L)仙椎(S)尾椎(Cd)
ヒト12癒合(5)癒合(5)
18癒合(5)15~21
1320~24

また馬の前足は尺骨の遠位部で一体化(癒合)しておりヒトのように橈骨体と尺骨体が離れて動作するような回内・回外運動が出来ません。つまり手の平返しは不可能です。

消化管

ヒトやイヌ、ネコは胃が1つ(単胃)でウシなど反芻動物は複胃です。草食と肉食の違いもあります。

小動物臨床のための機能形態学入門より

結腸の違いを示した図ですが、こんなに違います。

他にも体温調節などでイヌは寒冷地で生体深部の核心温度と手足(前肢後肢)の差が大きくなると動静脈吻合で毛細血管を間に挟まずに自律神経が働いて血管が拡張し血流量が増加して凍傷を防ぎます。肢端の毛細血管を介さないので末端冷え性は起きにくいですね。

ですから経穴や経絡をヒトと一緒に考えることは難しいかもしれません。

獣医の始まりは鍼灸師であったり漢方薬屋だったりしました。そして馬医がいてツボに鍼を刺して治療していた。今も馬専門の獣医がいます。でも昔の動物鍼灸の本を見ると前後肢のツボは少ないし経絡が記載されていない本がほとんどです。ツボの名称も人とは違うのが多く見受けられます。同じ呼称でも位置が違っていたりします。百会が腰の骨盤の真上になっていたり肺兪が前肢の付け根(C6~Th2からくる肩甲上下神経の分岐辺り)にあったりも。

乳中という「足の陽明胃経」の(ST-17)というツボがありますが、その位置はヒトでは前胸部で乳頭の中央(乳首の真ん中)となっています。ですが、犬はオスメスともに脇の下から足の付け根までバラツキはあるものの左右に5つずつ(合計10個)あります。牛や馬は?どうしたらいいでしょうか?種が違っているので違うのは当たり前ですよね。

最近の獣医向けの動物(犬)鍼灸の教本には人の経穴・経絡がそのまま書き写されています。2006年に始まったWHOのコード標記まで付いている。人では合意しても動物では合意形成がなされていないはずだけど。

経穴の位置や名称は中国、日本、韓国で微妙に違いがあり統一化(国際標準化)が図られました。1965年「日本経絡経穴委員会」が発足し、その年開催された第1回国際鍼灸学会で検討されました。私は当時(社)日本鍼灸師会の理事として会場にいました。そして完成したのが「標準経穴学」です。こういう統一化に向けた取り組みが動物鍼灸においても必要ではないかと考えています。

ヒトの経絡経穴

参考文献
十四経図解 鍼灸読本

代田文誌著

近年は鍼灸学校に於いても従来の経絡経穴に基づいた日本式の『経絡治療』ではなく『中医学』理論で鍼灸を組み合わせた考え方での治療法が行われるようになっています。また近年になって誰かがヒトの経絡をそのままイヌに当てはめて理解しようとしているように思えます。

では、獣医針灸(漢方)の歴史を振り返って考えてみましょう。経穴はいつ頃できたのか?経絡という概念はあるのか?
『動物の経穴図はあるのか?』 そして経穴は点ではなく面で考えるべきという考え方もあります。『鍼灸は点ではない。皮膚感覚は物語る。』 またデルマトーム(皮膚分節)と経絡との関連性は?

解剖学的な位置との相関は?『神経病の部位診断と神経学的検査

このように残されている文献を分析する限りではイヌに関して経絡という概念は見当たらず、この辺は検証が必要かもしれません。ペット鍼灸という新しいジャンルかと思いますが、古来よりの動物(家畜)への針灸や漢方(薬草)は「こういう症状の際はこのツボに針を刺し、どのような薬草が効果があるか」といった対症療法的な処置をまとめたものが多く見受けられます。

では、どういうツボ(ポイント)にどのような刺激を与えればいいのか?またそのポイントは相互にどんな理由でどんな繋がりがあるのか?科学的な根拠に基づいて立証可能か?一緒に考えてみませんか?

動物鍼灸の起源

人による動物の家畜化が進むにつれ狩猟で殺して食するものから大事に育てたり病気を治して役に立てる共存する動物へ変わってきました。おそらく最初は薬草や鍼灸の元(石器)にのようなもので行われていたのではないかと私は推測しています。
チベット医学の聖典である『四部医典(しぶいてん)タンカ』チベット語では「ギュー・シ」と言い17世紀から20世紀にかけてまとめられています。紀元641年に中国との国交が正常化されてから急速にインド・チベット(吐番)・中国との文化交流がおきて双方の知識が集積されていったものと思います。
興味深いのはタンカ33には動物の補助薬物として野生動物の肉や臓器、骨や排泄物から死体の脳や植物の毒まで薬として描かれています。更にタンカ36には按摩マッサージの油や針で血を出す瀉血の道具から外科手術のメスまであります。

そして経絡・経穴の元になっていると思われるのがタンカ6と7に記載されている人体前後の瀉血部位です。またタンカ11と12にはのが「脈絡」といわれるものが記されておりタンカ14には「脈網」という正中線上にインドヨガのチャクラのようなものがお腹と背中に描かれています。さらにタンカ15には「白脈」という脳脊髄神経の分布のようなものが描かれておりデルマトームのようでもあります。富山県国際伝統医学センターのWebで見ることが出来ます。

四部医典タンカ(しぶいてんたんか)

富山県国際伝統医学センター

中国最古の医学書『皇帝内径(こうていだいけい)』

「鍼経」9巻と「素問」9巻があったと伝えられており、その後「素問」「霊枢」として編纂され現在に伝えられています。

中国では殷の時代には馬が農耕や荷物運びに使われていたという記述があり、周(春秋時代)の紀元前770年〜前403年頃は馬を兵車として戦争の道具として使われだし「馬医(ばい)」または馬医の祖「伯楽(はくらく)」が登場する。この辺りから動物の病気に対しても皮膚を切開して膿を出すとか火で焼いた針でツボを刺すなど外科的な治療方が行われていたのではないかと思います。

馬医

『有象列仙全伝』の中に書かれている「馬師皇」という仙人は黄帝の時の馬を針や薬で治していたという絵と説話があります。

『(司牧)安驥集抜書』という李石が撰した馬の医学書があり、五行や易経などの基礎理論が記載されています。
これが日本に伝わって獣医学の基礎になったものと思われます。

(司牧)安驥集抜書(しぼくあんきしゅうぬきがき)

京都大学附属図書館

そして伯楽が著したとされる『伯楽鍼経』(はくらくしんけい)も、馬医の専門書になっています。
韓国から入ってきたものに『新編集成馬医方・牛医方』というのがあります。『新編集成馬醫方(3巻)』は国書データベースで読むことが出来ます。

新編集成馬醫方(しんぺんしゅうせいばいほう)

国書データベース

こちらからも『新編集成牛医方』などを読むことが出来ます。
https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya08/ya08_00024/

新編集成牛医方(しんぺんしゅうせいぎゅういほう)

早稲田大学図書館

日本の獣医学

酒井蔵書の馬療辨解

馬療辨解(ばりょうべんかい)

国文学研究資料館
馬療鍼灸撮要

(万病)馬療鍼灸撮要(まんびょうばりょうしんきゅうさつよう)

著者名 泥道人/白酔 著
寛政12 富士川文庫
国書データベース
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獣医針灸 : 豚・牛・家禽の穴位と治療

著者 江西省動植物防疫検疫站 編 [他]
出版者 刊々堂出版社
出版年月日 1976
<現代語で説明されていて非常に分かりやすく読みやすい>

国立国会図書館

中国獣医針灸療法

著者 森谷信行, 安原茂 訳編
出版者 三景
出版年月日 1978.3
<経絡を人と対比した考え方を取り入れており獣医針灸の現状がよく理解できる>

国立国会図書館

古代より徳川期に至る獣医書の研究

著者 白井紅白 著
出版者 [大日本獣医学会]
出版年月日 [1942]
<現代語で書かれていて獣医学の歴史が分かりやすく説明されている>

国立国会図書館

漢方鍼医 : 鍼灸学術研究誌 6(2)(11)

出版者 漢方鍼医会
出版年月日 1999-12
<経絡治療研究会での馬の経絡図に関する話が紹介されている>

国立国会図書館

元亨療馬集(げんこうりょうばしゅう)

NfO1 目録,卷1
NO2 卷2
NO3 卷3,4
No4 附駝経
階層 内閣文庫漢書子の部
請求番号 子050-0017
人名 著者:喩本(明)
数量 4冊
書誌事項 刊本 ,清
利用制限の区分 公開
巻数 4巻元亨療牛集2巻後附1巻
旧蔵者 紅葉山文庫
<疾患別の治療法や補ていの仕方まで馬・牛・ラクダなどで説明>

国立公文書館内閣文庫

1日セミナーでどの程度実践力がつく?

Q
 いくつかお尋ねします

大学を卒業し企業獣医師として産業動物に関わってきました。実務経験は長いのですが小動物、ペットへの臨床経験はあまりありません。もうすぐ退職なので今後獣医師の資格を活かして小さな動物病院の開業または往診専門でやっていきたいと考えています。

鍼灸や東洋医学には自身もかかったことがあり、以前より興味はありました。臨床に生かせるものなら勉強してみたいと思いいろいろと検索しました。数年かけて資格を取得するようなところもあるようですが、私には現在従事している仕事や家庭などの問題もあり長期に渡って取り掛かることは時間的にも金銭的にも難しい状況です。

そんななか1日で実践力が身につく日本動物鍼灸研究会のセミナーに興味が湧きました。でも、治療が必要な動物を前に経絡やツボの位置をきちんと探し出すことができるようになるのか?各種疾患に対していろんな治療法があり習得するのに時間がかかるのではないか?など不安があります。こんな状況ですが、セミナーを受講して鍼灸を活かすことができるようになるでしょうか?

A
 ご心配いりません!

お問い合わせありがとうございます。

1デイセミナーでどの程度まで実践力がつくのか?に関してですが、企業獣医師で第二の人生を考え動物鍼灸を学びに来られる方も多くいらっしゃいます。もちろん小動物の臨床経験がゼロでは開業は難しいかと思いますが、数年経験があれば問題ないかと思います。

仰る通り動物鍼灸を1年もかけて教える教える学院もありますが、鍼灸学校で客員講師を務めていた私からすれば無駄とまでは言いませんが随分面倒なことをやっているなという印象があります。

詳しくはお出でになった際にお話ししますが鍼灸学校では国家試験に合格するために必要な知識を身に着けるために多くの時間を要します。とは言え3年ですが。その中で実技は極端に少ないです。既に動物医学的な知識は獣医師は身に着けていますので鍼灸学校で教える2年間程度は終了しております。また極端な言い方をすれば東洋医学(中医学)の知識はあまり必要ありません。エビデンスがまだ構築されていない客観性のない哲学的なものに多くの時間を割く必要はありません。

でも東洋の哲学は歴史もありそれなりに面白く臨床ではあまり役に立ちませんが患者さんに向けての語りの材料としては大いに役に立っていますし視点を変えて病気や患者の身体を観察するという意味では重要です。

自分は食に興味があって東京農業大学で学んでから小林三剛先生のもとで東洋哲学を学び、後にこの業界に入ってから漢方薬なども学び鍼灸師になったのですが、動物鍼灸の研究の結果、動物では人の経絡やツボとは異なるため位置をきちんと探し出す意味はあまり感じられません。

ツボは獣医師が知っている解剖学的に証明されているポイントだけ使って治療が可能です。そういった理論をお教えすればすぐにご理解いただけると思います。そもそも立位で生活しているヒトのツボは四足歩行の動物には当てはまりません。動物鍼灸としてある既存の理論の大部分は極端な言い方をすれば嘘またはこじつけです。

人間相手の鍼灸師でもそれほど多くのツボを使っているわけではありません。対症療法といって「痛いところ」「辛いところ」へ直接鍼灸をする方がほとんどです。

実際の研修例で示しますと、それぞれの先生のご都合に合わせて研修を実施しますので、日曜がお休みの方なら初日の日曜の午前は人への鍼治療を見学していただいて、午後から座学として東洋医学の基礎理論と鍼の打ち方練習をやります。そして次の日曜日午後からボランティアの患犬さん達(3頭から7頭)に鍼の施術を獣医師の先生にやっていただきます。

1Dayで行う場合は午前は座学と鍼の刺入方法の習得で昼休みを挟んで午後から先生自らが治療を行う実技になります。前泊でいらっしゃる先生には前日の午後から人間への鍼灸治療を見学していただいてから次の日動物鍼灸の研修を受けていただいています。大概これでその次の日から動物鍼灸の臨床が行えるようになります。

開業は「動物鍼灸院」としてなら鍼と灸だけあれば何とかなります。往診専門でワゴン車をキャンピングカーのように改造して診察台と手洗いなどを乗せて走り回っている先生もいらっしゃいます。

また協力していただいている患犬の飼い主さん達は全くのボランティアで保護犬だったり、過去に障害が起こって鍼で回復し、現在は予防(未病治)で定期的に来られている方ばかりです。鍼灸の受診経験豊富なので温かい目で先生に接してくださいます。

遠方から来られる方がほとんどなので事前にオンラインセミナーを聴いて(予習)から来られる先生もいらっしゃいます。
https://college.coeteco.jp/s/animalhariq/animalhariq

あまり心配はいりません。どうにかなるものです。ほとんどの方が自信がついて研修後臨床に鍼灸を取り入れて活躍されています。

酒井茂一 日本動物鍼灸治療研究会(https://animal.hariq.com/


1日研修の際には患犬ボランティアの皆さんには午後からお出でいただきます。
できて6~7頭になりますのでご希望の飼い主さんはお早めにお申し出ください。

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